!!!第1章 宇宙世紀概要  1979年に放映が始まったテレビアニメーション「機動戦士ガンダム(以下,ファーストガンダム)」は,日本におけるアニメーション史上に画期的な作品の一つとなった。それには様々な理由があるが,いずれの理由も「ガンダムがヒットした理由」にはなり得るであろう。  逆に言えば,こういった様々な理由が複合的に重なった結果,「ガンダム」という作品は今日まで続く長期シリーズとなったと言えるだろう。本章では,最初に放映されたファーストガンダムが用いていた架空の暦「宇宙世紀」に関して時代ごとの概要をまとめている。  なお,以降の本文と註釈で執筆のスタンスが違うので注意していただきたい。(本文は,宇宙世紀の遙か未来に生きる人間として,注釈は我々「ガンダムという作品を見ている者」としてのスタンスでまとめている。) (red:概要は,PDF版では章頭にのみ記載されるが,Wiki項目では説明の為に各小節ごとに掲載している。) !!1-8 ジオンの再興  宇宙世紀0088年3月,アステロイドベルトから帰還した旧ジオン軍残党アクシズは,ドズル・ザビ中将の遺児ミネバ・ラオ・ザビを擁し,「ネオ・ジオン」となることを宣言する。  ネオ・ジオンは,直ちに各サイドに艦隊を派遣し,サイドの取り込みを図った。これは,アクシズという基地のもつ僅かな規模故の問題,すなわち人的資源の不足を補うために行われた措置であり,派遣艦隊は各サイド,コロニーに対して,ネオ・ジオンへの協力を要請し,来るべき地球連邦との対決に備えたのである。  一方,地球連邦軍はグリプス戦役でその戦力の多くを削がれ,旧エゥーゴの一部戦力すら正規軍として編成するに至っているような状況であった。特にネオ・ジオン軍に対して直接的な戦闘行動を起こせる部隊は限られており,また,グリプス戦役終盤のアクシズとの交渉に関わった連邦勢力の中には,ネオ・ジオンと事を構える事を避けようとする動きすらあったのである。(*1)  この結果,ネオ・ジオンに対して積極的な対処行動を取ったのは,旧カラバや旧エゥーゴの実戦部隊の一部となってしまい,ますますネオ・ジオンはその活動を積極的に展開するようになったのである。  宇宙世紀0088年8月29日,地球上に降下したネオ・ジオン軍旗艦サラダーンによって連邦政府,議会の本拠地ダカールが占領されると,連邦政府は一斉にネオ・ジオンへの恭順の姿勢を見せた。つまり,そこまで連邦の腐敗は進んでいたのである。  この占領によって,連邦政府の機能はガタガタとなり,ネオ・ジオンに抵抗している部隊は,ほとんどが独自の行動を取らざるを得ない状況となった。また,同年10月31日,抵抗を続ける連邦部隊と地球居住者に対する脅しとして,ネオ・ジオン軍はイギリスのダブリンへのコロニー落としを行った(*2)のである。このコロニー落としも連邦上層に対する脅しとしては見事に機能した上,宇宙移民者にとって見れば自らを圧する勢力への一撃であったこともあり,ネオ・ジオンに対する印象を悪くすることはほとんど無かったのである。(*3)  この結果,連邦上層部は,ネオ・ジオンとの交渉によってサイド3をネオ・ジオンへ割譲,地球から「立ち退いて貰う」という為政者としてはあるまじき行為を行うのである。  こうしてネオ・ジオン側の戦略は順調に推移し,かつてのジオン公国が為し得なかった「独立」を連邦に正式に認めさせることを成功したのである。  ところが,ネオ・ジオンも様々な問題を抱えていた。ミネバの摂政としてネオ・ジオンを指揮していたハマーンに対して,「ギレン・ザビの嫡子」を標榜するグレミー・トトが反乱を起こすのである。この結果,ネオ・ジオンは内部より崩壊し,この間隙を付いたエゥーゴによって制圧され,この戦争(*4)は終結する。  ハマーンの行った為政は,実のところハマーン自身の「ザビ家に対する復讐」も含まれていた。だが,こういった復讐をもとに為政を行ってもそれは結果的に政権の腐敗を呼ぶのである。ネオ・ジオンが内部対立が原因となり,崩壊したのは,このことに依るところが大きい。これは地球連邦軍が,グリプス戦役で辿った軌跡と同じなのである。  しかし,この状況をみても連邦政府の腐敗は改善されることはなかった。それどころか,ますますその腐敗は進行していったのである。  この状況下で,ついにあのシャア・アズナブルが自ら立ち上がることとなった(*5)。シャアは,自らのコネクションにより,アナハイムや旧ジオン系の人材を集め,再びネオ・ジオン軍として再編したのである。彼は,地球連邦政府に対しても,宇宙移民者に対する政策の改善などを要求したが,連邦はこれを無視,ついに事実上の宣戦を布告したのである。  シャアによって組織された新ネオ・ジオン軍は,軌道上の資源衛星であったフィフス・ルナを連邦政府の拠点であるラサに落とした。だが,これも連邦高官のエゴにより,ダブリンの時と同じく,巻き添えを食ったのは一般民衆だけであったのである。だが,シャアの本音は,そこではなく,アクシズを地球へと落とすことであった。彼は,このアクシズ落としによって,地球を「人間の住めない星」にすることで,全ての人類を宇宙居住者とし,ニュータイプの覚醒を促そうとしたのである。  この計画は,理念としてはニュータイプの覚醒を待つ,という点で間違いではないだろう。だが,結果的に力による抑圧には変わらず,そして何よりも「地球に住む人命の軽視」でしかなかったのである。無論,シャアは自らが希代の殺人者として歴史に名を残すことで,その点までも想定していた。だが,これに対してかつてエゥーゴで共に戦ったブライト・ノア率いるロンド・ベル隊は「ノーを突き付けた」のである。  ブライトやアムロといったロンド・ベル隊のメンバーの多くは,理念的にはシャアの考え方と同じであるとされる。しかし,手段が異なったのである。アムロとシャア,二人のライバルの戦いの後,アクシズ落としは阻止される。地球に住む人々の命は救われたのだった。  その後,ネオ・ジオン軍の残党と連邦政府による戦闘行為はこの後もしばらくの間続くが,いずれも散発的というレベルを超えるものではなかった。しかし,宇宙世紀96年4月に起きた事件は,散発的な戦闘行為とは言え,宇宙移民者と地球連邦政府にとってみれば,大きな出来事であった。  既に,ジオン共和国の自治権の返上についての方向性が示されたこの時期に,アナハイム・エレクトロニクス社内部での権力争いから,ひとつの宇宙世紀における真実が明かされたのである。  宇宙世紀元年に起こった連邦首相官邸ラプラス爆破事件では,その改暦セレモニーで公開されるはずだった宇宙世紀(ラプラス)憲章が,結果的に陽の目を見ることなく失われてしまった。だが,このラプラス憲章を刻んだ碑文が実はアナハイム・エレクトロニクス社の経営者一族の一端ビスト家によって保管されており,これをザビ家の遺児,ミネバ・ラオ・ザビが公開したのである。碑文の内容については各資料に譲るが,その内容は,「本来の連邦政府」が理念としていた「地球と宇宙,双方の共存共栄」を示したものであり,宇宙移民者にとってみれば「連邦政府によって(宇宙移民者から)隠されたもの」であった。(*6)  この事件は,「ジオン」という言葉からの呪縛を解き放つ結果とはなった。  だが,宇宙移民者の大衆にとってみれば「現在の連邦政府」のみが見える対象であり,対立構造を解消するには至らなかった。  そして,宇宙世紀100年1月1日,ジオン共和国の自治権放棄によって,「戦乱の終息」を地球連邦政府は宣言した。(*7)  だが,これが真の戦乱終結ではないことはこれまでの同種の宣言とかわることはない。この宣言以降も,連邦政府に対して敵対的な活動を行う組織は散発的ながら現れていったのである。  宇宙世紀105年にはマフティ・ナビーユ・エリンがアデレードの連邦政府議会に攻撃を仕掛け,多くの被害を出している。また,その後も散発的なテロなどは続き,宇宙世紀120年にはジオンの亡霊ともいえるオールズモビルが,連邦軍の次世代開発機であるF90の強奪事件をきっかけとした一連の「オールズモビル事変」を起こしているのである。  だが,こうした様々な組織の反政府活動が行われたにも関わらず,連邦政府の体質が変わることは遂に無かったのである。 !!註釈  本文中の注釈である。  記述スタンスは,基本的に「執筆者の視点」ではなく,「(我々)編集者/閲覧者の視点」で行われている。 !(*1)  これについては,主に言えるのは連邦政府高官の「事なかれ主義」である。ハマーン・カーンは,ネオ・ジオンとして宣言する際に,地球に対しては,事を起こすことの無いかのようなそぶりを見せ,地球で安穏として暮らす高官等には影響がないかのように見せかけたのである。  ハマーンからすれば,本来こういった連中は真っ先に粛正したい人々であったのだろうが,自らの足場固めを優先し,利用することを選択したと思われる。 !(*2)  この際に,連邦高官の多くは人民を見捨てて逃げ出した。しかも,コロニーの落着の情報を一切提供しない状況で,である。  このため,カラバ,エゥーゴの戦力がダブリン住民の避難のために活動し,結果として僅かながらの人命の救助には成功する。  しかし,これに乗じたネオ・ジオン軍の攻撃でカラバは中心人物であったハヤト・コバヤシを失い,ガルダ級アウドムラも失ったため,事実上壊滅した。エゥーゴ側も多くの損害を出しており,この点ではネオ・ジオン側の圧勝と言える状況であった。  こうした,本来ならば実務的な行動が取れる人材が,上層部の無能さにより数を減らしていった状況が,この第一次ネオ・ジオン戦争の大きなポイントであった。第二次ネオ・ジオン戦争〜コスモバビロニア建国戦争に至るまで,この連邦政府上層部の体質は変わっていない。そのため,独自に状況を見極めることのできる部隊が紛争の矢面に立たされる状況は続いていくことになるのである。 !(*3)  ネオ・ジオンが行ったコロニー落としは,ティターンズや旧ジオン公国軍の行ったコロニー落としとは,若干意味合いが異なる。ジオン公国軍のコロニー落としは,宇宙戦争におけるルールが確定していなかった時期の「早期戦争終結のための手段」という思惑で用いられたもので,宇宙移民者に対してジオン公国への不信感を植え付けはしたが,敵の本拠地であるジャブローを狙うなど,戦争の為の手段としては,(倫理的良し悪しはあれど)問題は少ないものといえる。  (結果的に失敗はしたが)ティターンズがグラナダへと行ったコロニー落としは,「エゥーゴの本拠地がグラナダであろう予測」のもとで行われた一方的な攻撃であり,当初から民間人も被害対象に含まれていた虐殺に近い物である。本来,ジオン軍残党の掃討をその設立理念とするティターンズの戦闘スタイルは,敵兵力のあぶり出しや,各個撃破といった少数対少数の形になるはずだが,それをも無視した形で行われており,宇宙移民者にとってみれば攻撃された側だけではなく,宇宙移民者であるという理由だけで,一方的にティターンズから攻撃をされる可能性を示唆するものとなった。この結果,ティターンズは自らの力を誇示すればするほど自らに対する反感は増大する一方だったのである。  これに対して,ネオ・ジオンが行ったコロニー落としは,地球連邦に対する鉄槌という意味合いに加え,地球居住者に対する粛正という意味合いもあり,宇宙移民者にとってみれば溜飲を下げる事柄であった。(もう一つ,ジオン公国軍の時と異なり,ネオ・ジオンは廃棄コロニーを地球に落としている。これは,宇宙移民者に敵対しないための配慮であったのだろう。) !(*4)  一般的には「第1次ネオ・ジオン抗争」というが,ハマーン・カーンは,地球連邦に対して宣戦を布告しているため,「第1次ネオ・ジオン戦争」とする方が正しいであろう。 !(*5)  シャアは,グリプス戦役時には,自ら前面に出ていくことを良しとしなかった。これは,彼の考え方が一歩引いたものであり,人類のニュータイプへの覚醒を待ちたいという,希望的立場であったためであろう。  しかし,その理念に近いブレックス准将の死と,自ら行ったダカール宣言後の連邦政府の状況,そしてハマーンが介入した状況に絶望したことが結果的に彼を独自の手段での「粛清」に乗り出す要因となったのであろう。 !(*6)  本作,機動戦士ガンダムUCは,作者および周辺スタッフの尽力で,これまで大きく取り上げられることのなかった,非公式な作品などからも設定などが流用されている。  また,前後の作品(逆襲のシャア〜閃光のハサウェイ,ガンダムF91)の整合性に配慮された結果,多くの「明かされなかった事実」が記載されることとなった。  特に,U.C.0100年代以降のアナハイム・エレクトロニクス社の凋落は,本作と兼ね合わせて考えると,非常に理解しやすいと言えるだろう。 !(*7)  この「紛争の終結」という宣言は,先に示したように実体を伴わない宣言であったことは,大小様々な紛争がこれ以降も続いていたことで明らかである。  また,この宣言がジオン共和国の自治権放棄に伴って成されたことは,連邦政府が「ジオン共和国の自治」こそが諸悪の根源であったかのような印象を与え,宇宙移民者がいい印象を持たなかったであろうことは想像するに難くない。 !!ナビゲーション *[[目次|GUNDAM WORLD ENCYCLOPEDIA Laboratory Report]] * << [[前項目|考察:Laboratory Report/第1章 宇宙世紀概要(7)]] ■■■■ [[後項目|考察:Laboratory Report/第1章 宇宙世紀概要(9)]] >> !!編集者 *あさぎり ---- {{lastmodified}}